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![]() 現役医師が描いた医療ミステリー小説『チーム・バチスタの栄光』(宝島社、1,680円)が、ハードカバー・文庫を合わせ、合計200万部を突破!売上低迷に悩む文学界、久しぶりの大ヒットの立役者は、同作で第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した海堂尊さん(46)だ。そして、この作品を原作とした映画が、2月9日に竹内結子さん、阿部寛さん主演で公開される。まだまだ、「バチスタ熱」は冷めそうにもない。文/湯川 桂 写真/持丸悦男(文化工房)
![]() 医療を舞台にしたミステリー小説は数多くあるが、現実味の足りない場面設定、無理あるストーリーに、読んでいる途中で興をそがれてしまうケースが少なくなかった。だが、ついに…いや、ようやく「本物」と呼べる医療ミステリー小説が現れた。目に浮かぶようなリアルな手術の描写、医療現場の盲点を突いた犯罪トリック、病院の権力構造……。 この著者、一体何者? と感心することしきりであったが、海堂さんは現役で活躍する医師であることを聞いて納得。 「医師でなければ、取材に辿り着くまでの段階で燃え尽きてしまうのではないでしょうか。これまで、病院を舞台にした多くの小説がありましたが、ほとんどは虚像でしかなかった。私は、取材者というより当事者の医師ですから、ここまで書くことができたわけです。そういう意味では、『チーム・バチスタの栄光』は、専門性を最大限の武器にできた作品だと思います」。
舞台は、とある大学病院。成功率60%という心臓手術(バチスタ手術)で、26回の手術をすべて成功させてきた7人のチーム・バチスタに、突如として降りかかる3回連続の不可解な術中死。偶然なのか、手術ミスなのか、それとも殺人なのか――。 主人公である1人の医師が、調査に乗り出すというストーリー。それだけを聞いても、思わず本を手に取りたくなるような話だが、読み始めてすぐに、単なるミステリー本ではないことに気付かされる。まるでノンフィクションのような、リアルさなのだ。 ![]() 海堂さんに医師としてのキャリアを聞くと、「外科医を大学病院で10年、死因を解明する病理医を10年やってきた」という。なるほど、その実績あって、この緻密なストーリー。作品前半は、外科医の臨床的な視点でぐいぐい読み手を惹き付け、後半は病理医としての分析的な視点でトリックを解明してゆく。 さらに、ストーリーの面白さはさることながら、いまの医学界に対する問題提起が作品に深みを与えている。 「そもそも、この作品は書こうと思って出来たものではなく、Ai(エーアイ)という、画像による死亡診断技術を、推し進めたいと思ったのが 最初なんです。普通は論文雑誌に掲載するのだけれど、小説という手法を使えば、より多くの人へのメッセージとすることができる」。 「Ai(エーアイ)」とは、MRIやCTを使って、遺体を傷つけずに死因を究明し、将来の医療向上につなげてゆく技術のことだ。聞けば、海堂さんは現在の『医学』の現状を憂いている医師のひとりであるという。 ![]() 「“医療”は、生きている人のためのもの。そして、死んだ人を調べるのが、“医学”です。 その医学がいま、なおざりになっているんです」。医療問題に質問が及ぶと、海堂さんの目は、一際、鋭い輝きを放つ。 「今の医療行政の下では、生きている人を助ける医療費ですら、削られている現状がある。 だから医療現場では、直接、生きている人を助けることに直結しない医学に、お金が投入されるわけがない。 これは医療行政の失政、構造的な問題です。土台工事を手抜きしたマンションに住めなくなるのと同じで、医学という土台のない医療現場は、今、崩壊の危機にあるのです」。 このエンターテインメント超大作に流れる、熱き医師の魂。きっと読者に伝わるはずだ。 海堂さんは『チーム・バチスタの栄光』の主人公、田口・白鳥コンビを登場させた、シリーズ作『ナイチンゲールの沈黙』 『ジェネラル・ルージュの凱旋』でも、医療現場を舞台に、医療行政に鋭いメスを入れている。待ち遠しいシリーズ第4作は、今秋を予定しているという。 「次のキーワードはずばり、『厚生労働省』です!」 こちらも非常に楽しみだ。
![]() さて、いよいよ、『チーム・バチスタの栄光』の映画版が公開される。この史上空前の大ベストセラー本の映画化を手がけたのが中村義洋監督。彼は文学作品に流れる世界感を壊すことなく、映像化することで評価が高い。前作は、こちらも大ヒット作「アヒルと鴨のコインロッカー」(伊坂幸太郎原作)だ。 「『チーム・バチスタの栄光』を読んだ時、この作品なら映像化できるという感触があった。でも実は、そういう文学作品って、ほとんどないんですよ。」(中村監督) 主人公・田口は、原作では男性医師として描かれているが、映画の中では、竹内結子が演じる。そして田口とコンビを組むもうひとりの主人公、厚生労働省の役人・白鳥が、阿部寛である。 海堂さんは強調する。「映画化のオファーがあったとき、ただひとつ、原作に貫かれている『医療の心』を残して欲しいと注文しました。そこを茶化さないでいただければ、あとは監督にお任せします、と。主人公が、(女性の)竹内さんというのには、最初はびっくりしました けどね。でも、最終的に面白いものにしていただいたので大満足です」。 中村監督も同じ思いのようだ。「原作を読んだとき、主人公の田口のキャラクターに惚れ込んでしまったんですよ。同じ中年男性というので感情移入もしやすかったのかな(笑)なので、中年男性の田口を、若い女性の竹内さんが演じるにあたり、最初はちょっとだけ不安でした が、彼女は見事に、しなやかで強い田口を演じきってくれました」。 医療現場がはじめてのキャスト、スタッフを支えたのが、錚々たる医療アドバイザー。そのひとりにバチスタ手術を日本で最初にされた心臓外科の権威、須磨久善医師がいる。チームのひとり、天才外科医を演じた吉川晃司は、実際に須磨医師のバチスタ手術を見学に訪れたという。それだけあって、バチスタ手術のシーンは、本当の手術を見ているほど迫真に満ちたものに仕上がっている。 ![]() 最後に、海堂さんに問うた、「医療の心」とは――。「それは簡単なことなんです。眼の前に傷ついている患者さんがいたら、よくなってもらうために全力を尽くす。物語に流れている根源的なものも、医師としての信念も、それだけです」。
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